本物のところてん

本物のところてんを1回だけ食べたことがある。
取材に伺った漁師さんのお宅でだ。
漁師さんが採った「テングサ(海草の一種)」で、漁師さんのお宅でつくられたものだ。

恥ずかしながらそこで本物のところてんを食べるまで、わたしはところてんと寒天を混同していた。
「原料がテングサ」からできるのが「寒天」で、寒天には、「棒状のスポンジみたいなの」「水に溶かして固めたかたまり」「切ったもの」があり、切る形によって「寒天」と「ところてん」に分かれると思っていた、というのはウソだ。今、書きながら考えた。おいしいところてんに出合うまでは論理的?に考えたことはなく、「四角が寒天」「麺状に突いたものがところてん」くらいの認識しかなかった。

たいしてうまいものでもなく、フルーツ缶詰のあしらいくらいのもので、ナタデココとは異なるのはわかっていたけれど、どうでもいい存在だった。

ところてんとは、テングサを煮出して抽出し、それを固めたもの(これを<A>と定義する)をそのまま食べるもの。

寒天とは、<A>をカットして凍らせたもの。一般的なのが、30cmくらいの長さの白いスポンジ状の「棒寒天」。フルーツ缶詰に入っているサイコロ状のものは、「棒寒天」を煮溶かして固めて切ったもので、「寒天」と呼ぶ(この部分は結局ややこしい)。

棒寒天からもところてんを作れるのだが、風味や強度(寒天に比べてしなりが強い)が劣るという(というようなことが、ところてん屋さんの記事に書いてあった)。

つまりだ。ところてん>寒天、なのだ。ところてんの方が、テングサ度が高いのである。ちょっと乱暴だが、寒天はところてんが薄めたようなものといってもいい。

だから、本物のところてんは、「テングサ」の磯臭い風味と、ぷるぷるしながらも、けっしてポキンとは折れずにしなるような強さのある舌触りを楽しむものなのだ。わたしはその醍醐味を味わうことができた。幸甚の至りだ。

本物のところてんの色は、少し緑がかっていたように思う。テングサの実物は見たことがないがネットで検索すると赤色のようなので、テングサそのままの色ではない。

パン屋の箱(番重ともいうので画像検索してみてください)の半分くらいの大きさの密閉容器の中にかたまりのところてんがたっぷり入っていて、それを包丁で切り出し、ところてん突きで突いた「突きたて」だったのもおいしかった理由だ。食べ物は空気に触れた瞬間に食べるのがおいしい。もちろん、漁師さんの家で、採れたての新鮮なテングサというのが最大の理由だろう。これこそが最高のぜいたくだ。
たれは、めんつゆだった。これもはじめてだった。
とこてんといえば、関東は酢醤油、関西は黒蜜が定番だ。関西でも酢醤油も売っているので、わたしは酢醤油を好んでいた。

漁師さんの本物のところてんは、ところてん自体の密度の濃さというか、しっかりした素材の感触が、「歯ごたえあるもの好き」のわたしの好みにぴったり合った。これまでわたしが食べてきたものは「半分水に溶けてるんじゃないの?」というような、歯ごたえもなく、ふにゃふにゃしていて、「角」が感じられなかった。先端は情けなく先細っていて水の中に消え入りそうなシロモノだった。

その日からわたしは、本物のところてんを探し始めた。まずは手軽にネットで「麺状になっていないかたまりのところてん」から。わたしが知らなかっただけで、すぐに出てきた。かたまりのところてんを扱っている店はたくさんあった。

「ところてん突き」とセットで買った。
結果は大いなる期待外れ。
ネット通販なので、ある程度の量を買った。水に漬け、豆腐の保存の要領で毎日水を替えて冷蔵庫に保管すれば1週間程度は持つのだが、最後のほうは香りも味も抜け、ただの「半透明のかたまり」。到着してすぐに食べても、テングサの香りはしなかった。
ネット通販では二度と買わなかった。

それからわたしは、デパ地下、和菓子屋はもちろん、道の駅、高速道路のサービスエリア、駅構内のちょっとした広場やなどで催されている物産展などで「かたまりのところてん」がないか観察した。
「突いてパックに入ったところてん」なら、スーパーの豆腐売り場にも売っているが、「かたまりのところてん」は需要がないのか、なかった。あたりまえだが「ところてん突き」を持っている人は少数だし。

ところが、灯台もと暗し。意外なところにかたまりのところてんはあった。

この話はつづく