かたまりのところてん

この話の続き。

先のブログで肉は肉屋、魚は魚屋、野菜は八百屋で買っていると書いたが、当然豆腐も豆腐屋で買っており、かたまりのところてんは商店街の豆腐屋にあった。

小さな店構えのその豆腐屋は、70代のおばちゃんが一人でやっている。たまに息子らしき人物を見るが、たまの手伝いであって本業ではないようだった。

豆腐屋はスーパーとは仕入れルートが違うのか、こんにゃくもおいしい。わたしは白い糸こんにゃく(関西には白滝というものはなく、親しみを込めて「糸こん」という)が特に気に入った。

その糸こんは、大小2つのサイズがあった。そういうサイズのものを仕入れていると思っていたのだが、袋の口が輪ゴムで縛ってあるだけなので「?」と疑問に感じた頃、その糸こんは、仕入れ時は2キロの米袋くらいの袋に入っていて、それをおばちゃんが大小2つのサイズに小分けにして売っていたことを知った。わたしはこんにゃくも好きだったのでしょっちゅう買っていたら、「大袋がある」とすすめられて全体像というか、仕入れたままの姿を見たのだった。

こんにゃくが入っている水は、水酸化カルシウム溶液なので、溶液に入れたまま保存すれば封を切ったからといってすぐに腐らない。これは仕事でこんにゃく工場を取材したときに知ったことだが、おばちゃんも「水、そのままにしといたら腐らへんから」と言いながら、腰を曲げ、下の方から重い大袋を出してわたしに手渡してくれた。

ここからところてんの話になる。

まだ小分けサイズの糸こんを買っていた頃、いつものように「糸こん」の袋を手に取った。おばちゃんは「それ、ところてんやで」と言った。「へ?」と不意を突かれた。前回のブログ(リンク)で書いたようにあらゆるところでかたまりところてんパトロールを行っていたわたしだが、豆腐屋にところてんがあることには気づかなかった。

「へー、ところてんもあるんや」と感心すると、おばちゃんは、自分でつくっていると言い出した。わたしはすかさず訊いた。「かたまり、ある?」

残念ながら、その日はすべて突いてビニール袋に小分けにしてしまったため、かたまりはないという。わたしは「コレはイケるかも?」とまた大いなる期待を抱いて、小袋突きところてんを買い、めんつゆをかけて食べた。

ちなみに、豆腐屋では1食分のパックになった黒みつを売っており、なんとなくそれも買ってみたりした。バラで1個ずつ買うことが新鮮に感じたからだ。

豆腐屋のところてんは、すでに突いてはあったが、期待は裏切らなかった。もちろん、漁師さんのお宅で食べた本物のところてんのようにはいかなかったが、角もあったし、歯ごたえも十分でおいしかった。ただ、香りは薄かった。でも「かたまりならば……」という次回への期待がふくらんだ。

次は、朝早めに行ってみた。かたまりはあった。売り場に出す前の豆腐を入れておく、深~~~いシンクのようなところに入っていた。おばちゃんは親切心から突いてくれようとするので「かたまりがええねん」と言うと、豆腐を切る中華包丁みたいなデカい包丁で、豆腐2.5丁分くらいの大きさに切ってくれた。

ウチのところてん突きで突いた、突きたてところてんは、小袋突きところてんよりおいしかった。漁師さんの家で食べた味にはおよばなかったが、豆腐屋のおばちゃんがていねいにつくっていることはわかった。おいしかった。

しばらくは毎週のようにところてんを買った。おばちゃんにしてみれば「ところてんは突いてから売るもの」なので、買いに行っても「全部突いてしもた」と、小袋になっていることもあった。「(かたまりを)とって置いとこか」とも言ってくれたが、わたしも買い物に行けないときもあって申し訳ないので「あるときでいいから」と、3回に1回くらいは小袋の突きところてんを買って帰った。

その頃わたしは食べ方にも工夫をこらし(というほどでもないが)、めんつゆだけでなく、青のりとゴマもかけるようになった。青のりもゴマも例の乾物屋で買ったもので、アオサではない本物の青のりだ。

豆腐屋のかたまりところてんは夏だけのもので、2~3年は夏になるたびに買っていたが、いつの間にかところてん熱も冷め、おばちゃんもところてんを作らなくなっていた。

テングサからつくった本物ではないとは思ったが、材料が気になってチラリと訊いたことがあるのだが、そこは企業秘密、教えてくれなかった。わたしが自分で棒寒天でつくった「ところてんもどき」よりはおいしかったので、プロならではの材料を使っていたのかもしれない。

ところてん熱が冷めたあと、わたしは寒天つながりで「孤独のグルメ」に登場した「豆かん」にハマった。「豆かん」の顛末もまた、必ずや。

通販のかたまりのところてんとセットで買った「ところてん突き」。