わたしの失敗と反省

わたしは、クライアントにヒドイ目に遭わされたことを執念深く覚えていて、それを語りはじめたらそれはそれは長くなるが、実はわたし自身が、フリーライターをヒドイ目に遭わせたことがある。

会社員だった20年以上前のことだ。仕事が重なるときは何人かのフリーライターやフリーエディターに振りながらまわしていた。よくあるやり方だ。
新規の仕事が入り、上司が「この仕事、3ヵ月に1回発行する定期ものなのだけど、フリーライターのAさんに頼もうと思っている。にゃんと!(←わたしのこと)が、担当して進めて」という形でわたしが任された。
たいしたボリュームの仕事でもなかったのだが、わたしが結構忙しくしていたのを見かねてフリーライターをつけたのだと思う。最初の号はフリーライターに依頼してつくったが、実際にやってみると、やはり、自分でやった方が早いというレベルの制作物だった。
そして、この業界の悪い習慣なのだが、スタートしたときには金額が決まっていなかった。できあがってからいくらでお願いしたい、というやり方は今でも多い。全体の制作費自体がわたし自身が想像していた金額よりも安く、フリーライターに潤沢に支払えるような仕事ではなかったことが、第1号の制作後にわかった。上司に「ボリュームもそんなになく、予算も厳しいので、フリーライターは断りたい」と言って了承してもらった。
そして、フリーライターには、わたしからFAXで「今月号は□□□□□円でお願いしたい。なお、次号からは申し訳ないがお願いできなくなったことを了承してほしい」というようなことを連絡した。

すぐにわたし宛に抗議の手紙が(FAXではなく郵送で)届いた。内容はこうだ。
●自分はにゃんと!(←しつこいがわたしのこと)の上司から、仕事を依頼された。
●定期刊行物と聞いており、すでに年間のスケジュールを組んでいる。
●一方的に断るのは筋が通らない。
●金額も自分が設定している制作費とは合わない(安すぎるということ)。
未だに覚えているが、激しい口調の文章で、かなりの怒りようだった。

この一件は、フリーライターに対して、発注はわたしの上司が行い、断ることはわたしが行ったことで怒りを増幅させてしまったのだと思う。
わたしは、断ることについては上司に話を通した。本来ならば依頼した上司から断りの連絡を入れるべきだったと思うが、上司は「この案件はにゃんと!の担当」としてしまい、手を放していた。
フリーライターの怒りの矛先はわたしに向けられていたが、部下の管理もできないのかと、わたしの上司に対する怒りの方が強かったのではと思う。だが、わたしの上司に怒りをぶちまける勇気はなかったのだろう。そのやるせなさは、当時のわたしにはわからなかった。

今は、フリーライターの怒り、悔しさ、悲しさがよくわかる。
定期刊行物と聞き、一定の収入が見込めると喜び、期待したのに、一瞬にしてハシゴをはずされた。金額も自分が想像していたものよりかなり下回る――。
さらに、手足として使われただけで、達成感もない――。

当時、わたしに解決する権限はなかった。わたしが抗議文を上司に見せ、上司が電話で話をつけた。おそらくわたしが提示した金額より少し多くの金額を支払ったのだろう。
わたしにしてみれば「そもそもわたしが依頼したのではない」という主張もあった。しかし、ずるいようだがそのことはフリーライターにも上司にも言わなかった。フリーライターに直接謝罪もしなかった。とにかく黙っていたのだ。自分を擁護するつもりはなかったが、解決する案もなかったし、権限のないわたしにはどうしてみようもなかったのだ。

その後、そのフリーライターに仕事を依頼することはなかった。わたしの所属するグループ以外からも依頼しなかったと思う。
当時は業界全体の仕事が減りつつあり、フリーライターに依頼することも減っていたので、そのフリーライター自身の仕事も少なくなっていたのだろう。そんなときのわたしの仕打ちは本当に腹が立ったのだろうと思う。

わたし自身も、このフリーライターと同じように、仕事のハシゴをはずされるような目に何度も遭っている。連絡すらなかったこともある。わたしから問い合わせて「ああ、あの仕事なくなりました」とあっけらかんと言われ、タダ働きに終わることもしょっちゅうだ。
腹も立ったし、悔しいし、涙が出るほど悲しかった。だが抗議はしなかった。抗議をしないことが正しいのかはわからない。ただ、抗議されたことがある身として「抗議されたらもう仕事は頼まない」ことを知っている。
そのフリーライターは、抗議によってわたしが所属していた会社からの仕事がなくなってしまうことを覚悟していたのだろうか? わたしの会社からの仕事はこれ以外にはなく、失うものがない状態だったのだろうか? わたしのことが嫌いだといわれるほどのつきあいもなかったので、わたしが嫌いという理由で、仕事をなくすほどの抗議をしたとは思えない。

わたしは、仕事を失うような行動を起こさせるほど人を怒らせてしまったことをたいへん反省している。わたしがすべての原因ではないとしても、もっと相手の身になって思慮深く行動するべきだった。悪かった。申し訳なかった。
当時は仕事への期待を踏みにじられた悲しみがあることに気づかず、怒っているだけだと思っていたことを何よりも申し訳なく思う。

このことは、そのフリーライターも忘れてはいないだろう。今も思い出すと腹が立つのだろうか。今、何をしているのだろうか。わたしはときおり思い出し、反省を重ね、二度と人にそのような思いをさせないと心に誓っている。